tanishi_global_macro’s diary

日々の仕事の中で調べたことをブログとして書いていこうと思っています。 金融の専門家でない方々にもわかりやすく書いていくつもりです。知らなくても良いけど、知っていると話のネタになる、経済ニュースの意味が分かる、長期投資のちょっと助けになる、ようなことを書いていきたいと思っています。

3枚のチャートで読み解く投資の現在地

今回は、3つのチャートを基に、現在の経済/金融市場を理解していくための大前提について書いていこうと思います。

今後、長期的に資産運用を行っていく上で非常に重要な視点であると思います。

チャート① マネーサプライという「ものさし」——資産の勝者と敗者

マネーサプライと各資産クラスのパフォーマンスの推移

このチャートを読み解く鍵は、「マネーサプライ」という一本の線です。マネーサプライとは、銀行が市場に供給しているお金の総量のことで、2007年5月以降、年率6.2%のペースで増え続け、最終的に約311まで到達しました(出発点を100とした場合)。

なぜこれが重要なのか。お金の総量が毎年6.2%ずつ増えるということは、現金や預金で資産を持ち続けた場合、その価値が相対的に目減りしていくことを意味します。言い換えれば、マネーサプライの増加率を上回った資産だけが「本当の意味で」価値を守り、増やしたことになります。このチャートはその勝者と敗者を、数字で明確に示しています。

勝者:マネーサプライ(約311)を上回った3資産

  • NASDAQ(ハイテク株):約829 年率 +11.9%:ダントツの首位。AIブームが加速した2023年以降の急騰が特に際立つ
  • 金(ゴールド):約707:2位。長年ほぼ横ばいだったが、2022年以降の地政学リスク上昇と各国中央銀行による金購入増加を背景に急騰し、S&P500をも抜き去った
  • S&P500(米国株全般):約427 年率 +8.0% マネーサプライを上回るが、金の急騰に最終的に追い抜かれる形になった

敗者:マネーサプライ(約311)を下回った2資産

  • 社債インデックス:約218 年率 +4.2% 利息収入はあるものの、長期的にはマネーサプライの増加ペースに及ばず
  • 住宅価格(ケースシラー指数):約180 年率 +3.2% 最も低いパフォーマンス。「不動産は安全な資産」というイメージとは裏腹に、全体ではこの期間においては実質的な価値の目減りが続いた。

金の動きは特に注目に値します。

2007年から2020年頃までの約13年間、金の価格はマネーサプライとほぼ同水準かやや下回る程度で推移しており、実質価値の保持という金に期待される役目を果たしていました。ただ、逆に言うと、保持していただけで増加していませんでした。

ところが2022年以降、ロシアのウクライナ侵攻、中東情勢の悪化、そして米国の財政赤字拡大への懸念を背景に、金価格は急騰を始めます。

各国の中央銀行がドル資産から金へのシフトを加速させたことも追い風となり、最終的にはS&P500をも上回る約707という水準に達しました。

一方、住宅と社債の「敗北」は見逃せません(絶対値では上がっています!)

多くの人が「家を買うことは最良の投資」と信じていますが、少なくともこの約19年間のデータは、住宅価格の上昇がお金の増え方にすら追いつかなかったことを示しています。

社債も同様で、利息を受け取りながら「安全に運用している」つもりでも、実質的な購買力は年々目減りしていたことになります。

ただし、これら二つの資産クラスについて注意するべき点は、社債や不動産を購入する際にはレバレッジを活用できるということであり、その点を考慮に入れるとリターンは変わってきます。

ポイント:マネーサプライを「基準線」として見ると、資産の勝ち負けが鮮明になります。NASDAQ・金・S&P500は勝者。社債・住宅は敗者。そして最大の驚きは金の急騰—長年の「凡庸な資産」から、近年は最強クラスの資産へと変貌を遂げました。

チャート② 株価の「上がり下がり」 — 下落局面は思ったより少ない

S&P500の前年同月比騰落率

このチャートは、1971年以降の各月において、S&P500が1年前と比べて上昇していたか、それとも下落していたかを示しています。青い線がゼロより上にあればプラス、赤く塗られた部分がゼロを下回る下落局面です。

二つの時代の比較

  • 1971年12月〜2009年12月(457ヶ月):130ヶ月がマイナス(約28.4%)
  • 2010年1月〜2026年3月(195ヶ月):27ヶ月がマイナス(約13.8%)

前の時代には、オイルショック、ITバブル崩壊、リーマン・ショックといった歴史的な危機が含まれています。

その結果、株式が前年比マイナスだった期間は全体の28.4%であり、71.6%の期間は上昇していたことになります。

2010年以降はこの割合が縮まり、下落局面はわずか13.8%です。チャートに刻まれた深い谷も、いずれもその後短期間で回復しています。

ポイント:株式市場の下落は、長期的な目線で見れば想像以上に稀な出来事です。(下落の局面が再来するリスクは常に念頭に置く必要がありますが。)

さらに言うと、個人的には、金融危機以降、株式投資の「性質」というものが変化したと思っています。

株価がバブルで、いつか株価が急落した時に買おうと思っている人は多いと思うのですが、バブル崩壊・金融危機のような、みんなが期待するショックは来ないと思っています。(その理由は、これからの投稿で説明していく予定です)

チャート③ 米国経済の「体力」——リーマン後に変わった景気の質

実質GDP成長率の推移

このチャートは1930年から2024年にわたる米国の実質GDP成長率 — インフレを除いた「本当の経済成長」 — を示しています。縦の赤い線は2012年頃に引かれており、2008〜2009年の世界金融危機(リーマン・ショック)からの回復が一段落した時期を示す区切り線として読めます。

このチャートの核心:危機後に消えた「乱高下」

チャートの左側(赤い線より前)を見ると、GDP成長率が激しく上下していることがわかります。大恐慌期(-12%)、第二次世界大戦の軍需拡大(+18%超)、1970年代のオイルショック、1980年代の急回復と急減速、2001年のITバブル崩壊後の落ち込み — 歴史的な出来事のたびに、経済は大きく揺れていました。

ところが赤い線より右、2012年以降を見ると、様相が一変します。成長率は概ね2〜3%台に収まり、その振れ幅が劇的に小さくなっています。2020〜2021年のコロナショックと急回復という特殊な例外を除けば、経済成長は「穏やかに、しかし安定して」続いているのです。

このことは上記の「S&P500を1年間保有した時に損する可能性が大きく低下した」ということと関係しているのかなと思っています。

リーマン・ショック後、米連邦準備制度(FRB)は超低金利政策と大規模な量的緩和を導入しました。

これが経済の下振れリスクを抑え込み、従来のような景気サイクルの大きな振れを「ならす」効果をもたらしました。成長率は低めになりましたが、その代わり極端な落ち込みも起きにくくなったのです。

まとめ

金融危機は米国経済のあり方を根本的に変えました。

「激しく成長し、激しく落ちる」時代から、「穏やかに、しかし安定して成長する」時代へ。

この安定した低ボラティリティの成長環境が、チャート①・②で見た株式の長期上昇を支える土台のひとつになっています。

次回以降は、「どのように」金融危機は米国経済を変えたのか、この安定した時代の背景には「何が」あるのかについて書いてみたいと思います。