はじめに
2026年4月にこのブログを開設しました。
グローバルマクロの視点から米国経済・金融政策・地政学を分析し、長期投資の根拠を体系的に組み立てることを目的としています。
これまでの14本の記事を通じて一本の論理が貫かれています — 「GFC以降、米国経済の構造は変わった。その変化を正しく理解すれば、リスク資産への長期投資は合理的である」
ここでは、これまでの投稿をまとめます。そして、今後、その時々で投資を考えていく際の指針・羅針盤として利用していきます。この投稿にはチャートを貼りつけませんが、その代わりに、各部のまとめとなる過去記事のリンクを貼りつけます。
(過去の記事を含め、コメント・質問なんでも大歓迎です!)
第1部|イランショック・CPI・金融政策
2026年2月28日、米・イスラエルによるイラン攻撃でホルムズ海峡が封鎖され、北海ブレント原油は最大約114ドル/バレルまで急騰しました。エネルギー項目のCPIへの押し上げ効果は米国・日本ともに最大+1.2ポイント程度と試算されますが、情勢が数カ月内に収束するという前提に立てば「一時的要因」です。
イランショックを脇に置くと、米国インフレの本質は住居費(帰属家賃)の粘着性にあります。市場家賃(Zillow指数)との乖離は2026年2月時点で解消されてきていますが、もう少し住居費インフレは鈍化する見通しです。
労働市場は「調整」段階にあります。求人件数はピーク比▼44%の688万件、恒久的失業者は前年比+11%増の252万人。特に管理職・IT・事務系のホワイトカラー職種での失業増加が顕著で、AI・自動化の影響が疑われる構造変化です。
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実質政策金利は+1.35%。失業率の上昇トレンドと照らせば高すぎる水準にあり、FRBの年内利下げ可能性は高いというのが筆者個人の見立てです。 |
第2部|トランプ政権のグランドデザイン
2025年11月発表のNSS(国家安全保障戦略)は、冷戦後の国際秩序を根本から書き換えようとするものです。核心は「軍事力と経済力の統合」 — 関税は安全保障ツール、同盟は条件付き取引、ドル覇権は外交レバレッジとして再定義されています。
この戦略が「願望文書」でない証拠として、①IEEPAを安全保障法として活用した関税戦争、②マドゥロ政権打倒後に米石油会社が油田運営を担うベネズエラ軍事作戦(2026年1月)、③ホルムズ海峡封鎖を招いたイラン攻撃、の3つが挙げられます。国防省は戦略資本局(OSC)を通じてレアアース磁石メーカーや半導体企業の株主にもなっています。
また、次期FRB議長ウォーシュへの交代(2026年5月)を機に、ドルスワップラインが「中立的な危機管理ツール」から「同盟行動と連動する条件付き資産」へと変質するリスクが高まっています。ただしその武器化は、ドルへの信頼を侵食し脱ドル化を加速させるという諸刃の剣でもあります。
第3部|米国財政赤字の解剖
平時に景気後退期並みの赤字を出す異常事態
歴史的に財政赤字は失業率の急上昇と連動してきました。
2008年のリーマンショック時は失業率約10%でGDP比赤字約10%——これは「自動安定化機能」の正常な作動です。
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しかし現在、失業率4.2%(完全雇用に近い水準)にもかかわらず、財政赤字はGDP比6.3%。これは平時の米国史において前例のない異常値です。 |
なぜか。
社会保障(GDP比5.3%)・メディケア/ヘルスケア(同計6.6%)・純利払い費(同3.3%)という「削れない三本柱」が歳出を支配しているからです。
中でも純利払い費は2017年比+290%増 — 累積債務の巨大さと金利上昇という二重の打撃の結果です。次の景気後退が来た時、この構造的赤字の上に自動安定化機能による悪化が重なることになります。
第4部|1945年という鏡
GDP比100%超の連邦債務という意味で、現在のアメリカ(130%超)に最も近い歴史的先例は1945年(約118%)です。
では1945年のアメリカはこの重荷をどう克服したのか。
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1945年の解法 |
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名目GDP成長率 |
平均5〜10%台 |
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10年国債金利 |
2〜3%(YCCで人為的に抑制) |
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インフレ率 |
約7%(実質金利は大幅マイナス) |
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解決にかかった年数 |
約10年で債務/GDP比を60〜70%台へ圧縮 |
答えは「高成長+低金利(金融抑圧)」です。FRBはイールドカーブ・コントロール(YCC)で金利を人為的に抑制しながら、成長とインフレで債務の実質価値を目減りさせました。国債保有者が実質的にコストを引き受ける構造です。
現在はどうか。2022年以降の利上げで10年国債金利は4〜4.5%に高止まりし、成長率と金利の差(スプレッド)が1945年当時ほど開いていません。
「高成長+低金利」の同時達成は現時点では未達です。
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トランプ政権の減税・規制緩和・原油増産は成長率向上に資しますが、金利を低く抑える政策は今のところ見当たりません。この問いへの答えが米国経済の最大のテーマです。 |
第5部|流動性・信用創造・リスク資産の連鎖
FRBのQTが行われていた中でも商業銀行与信は前年比増加きており、「信用創造のバトンがFRBから民間銀行へ渡りつつある」局面です。2026年4月発効のeSLR規制緩和はこの移行を構造的に後押しすると予想されます。
さらに大きな視点として、4大中央銀行のバランスシートと民間銀行信用創造を合算した「グローバル流動性指数」(筆者独自算出)が、ISM製造業景況指数に対して約6カ月先行するという関係性が長期データで確認されています。
さらに、ISM製造業景況指数とリスク資産の前年同月比リターン(%)には連動性がみられます。
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ステップ |
内容・タイムライン |
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① グローバル流動性の拡大 |
起点(T) |
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② ISM製造業景況指数の改善 |
T+6カ月前後 |
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③ リスク資産(銅・S&P500)の前年比リターン改善 |
②に概ね連動 |
まとめ
14本を貫くテーゼは一つです。「GFCは米国経済の構造を根本から変えた。政府が債務リスクの引き受け主体となり、FRBが経済の下振れを抑制する新しい均衡が成立した。この構造が続く限り、極端な金融崩壊は起きにくく、リスク資産への長期投資は合理的である」。
グローバル流動性の回復兆候、信用創造のバトン移転、ISMの拡大転換 — これらが示す「今はリスク資産に前向きな局面」という判断は、この大きな構造認識の上に立っています。
さらに、今後も大局的には、流動性→ISM→リスク資産という視点から「今どのフェーズにいるか」を見極めていくことができると考えています。
今回の投稿で一旦、マクロ分析に関するフレームワーク的な投稿は終わりにして、次回以降は、もう少し日々のニュースや時事ネタに関したことを書いてみたいと思います。