tanishi_global_macro’s diary

日々の仕事の中で調べたことをブログとして書いていこうと思っています。 金融の専門家でない方々にもわかりやすく書いていくつもりです。知らなくても良いけど、知っていると話のネタになる、経済ニュースの意味が分かる、長期投資のちょっと助けになる、ようなことを書いていきたいと思っています。

家計・企業・政府の負債動向、50年の軌跡

はじめに

「アメリカは借金大国だ」とよく言われます。では、その借金は誰がどれほど抱えているのでしょうか。今回のチャートは、1973年から直近にかけての約50年間にわたり、家計・非金融企業・政府という3つの主要経済主体の負債残高と、それがGDP(国内総生産)に対してどのくらいの規模かを可視化したものです。

チャート①:負債の絶対額の推移

各経済主体の負債とGDP

第1のチャートでは、GDP(薄紫の面グラフ)を背景に、家計(青)・企業(赤)・政府(緑)の負債を折れ線で示しています。

全体を通じて言えることは、3者すべての負債がGDPとともに右肩上がりで増加し続けているという事実です。

しかし、増え方のペースと「いつ誰が突出したか」に注目すると、構造的な変化が見えてきます。

  • 2000年代前半まで:家計・企業・政府の3者はほぼ同水準で並走していました。
  • 2000年代(住宅バブル期):家計の負債が急加速し、2008年頃に一時的な頭打ちを迎えます。リーマンショック後、家計は借金の返済(デレバレッジ)に動いたことがわかります。
  • 2010年代以降:家計が借金を減らすのと対照的に、政府の負債が急増し始め、企業もこれに続きます。
  • 2020年以降(コロナ禍):政府の負債がさらに垂直に近い形で急増し、直近では40兆ドルに及ぶ勢いであり、GDPをも上回る水準に達しています。

【重要な転換点:2008年 リーマンショック(世界金融危機)】  リーマンショック以前は、家計の過剰借入がリスクの震源地でした。しかしこの危機を境に、政府の負債が急激に増加し始めます。政府の負債残高はそのまま増加のトレンドを維持しています。

チャート②:GDP比(負債比率)で見ると、より鮮明になる

各経済主体の負債/GDP比率

絶対額だけでは「経済規模が大きくなったから借金も増えた」という側面が見えにくくなります。そこで重要なのが、GDP比での比較です。

  • 家計(青):1973年時点で約45%。住宅バブル期(2000年代)に約100%まで上昇しましたが、リーマンショック後に急速に低下し、現在は約70%前後まで改善。家計は過去15年で着実にバランスシートを修復したと言えます。
  • 企業(赤):長期的に約50%~70%の範囲で推移しており、3者の中では最も安定。コロナ禍前後に一時的に約90%まで上昇した後、足元では約70%程度に落ち着いています。
  • 政府(緑):1970〖80年代は約30%と低水準でしたが、2008年の世界金融危機を境に一気に切り上がり、コロナ禍の際には約130%という歴史的な高水準に急騰し、現在も120%台を維持しています。
  • 合計(薄紫):3者を合算した総負債比率は、1973年の約125%から現在の約260%前後へと倍増しており、コロナ禍中には一時約300%に達しました。

データが示す「構造的な転換」

この2つのチャートが伝える最も重要なメッセージは、「アメリカの借金問題の主役は、家計から政府へと移行した」という点です。

リーマンショック(2008年)以前は、家計の過剰借入がリスクの震源地でした。しかし現在、家計と企業は相対的に借金を整理・安定化させる一方で、政府部門だけが借金を膨らませ続けています。

この構図は、財政の持続可能性という観点から、中長期的に重要な問いを投げかけています。金利が高止まりする局面では、政府の利払い負担が財政を圧迫し、社会保障や公共投資の余地を制限する可能性があります。

一方で、政府債務は貸し倒れる訳にはいかないため、政府はFRBや財務省が持つあらゆる力(民間に購入のプレッシャーをかけるということではなく、例えば、YCCを行ったり、発行する国債の年限を調整したりするということです)を活用して、債務の借換えを行うことになります。

別の言い方をすれば、借換えが首尾よく行われるように、経済環境を安定した状況に維持しようとするでしょうし、金融ショックのようなものは何としても避けるのではないかと思います。

このことが前回の記事で書いた、経済・株式市場の安定性をもたらしているのではないかと思っています。

tanishi-macro.hatenablog.com

今回の記事のアイデアは下の本を読む中で醸成されたものです。

仕事でも経済を負債の側面から分析するということをよくおこなっています。

次回の投稿では、政府への負債の集中という観点をもう少し掘り下げてみたいと思います。